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ピラティスと神経科学

2026.06.06 ピラティスを知る

先々月(2026年4月)、Nahokoさんと一緒にNABOSOのニューロセンサリースペシャリストの資格を取得しました。ニューロセンサリーは感覚神経。姿勢保持や運動において、どのような神経が働き、それをどう強化するかという理論と実践を学んできました。

さて、近年興味を持つ方が多いピラティスですが、起源はジョセフ・ピラティスさん(1883-1967)が1910~20年代に考案・創造した運動です。わたしたちが資格を取ったときは、ピラティスさんが創ったオリジナルのエクササイズだけではなく、ピラティスさんの生徒さんやその生徒さんが後年作った膨大な数のエクササイズや新たなマシン・イクイップメントが加わって、現代のピラティスはより多様なものになっています。

ピラティスさんは当時自分が作った運動指導法をコントロロジーと名付けており、身体をコントロールする学問のようにとらえていました。コントロールには、動作だけでなく、姿勢、心と身体の調和も含まれると言います。

運動科学や医学、脳科学などの関連学問は日進月歩で、ピラティスが創られたときにはまだ知られていなかったことも多く存在します。今回は、知られていなかったであろう分野の1つである神経科学の観点から、ピラティスの特徴をまとめてみたいと思います。

運動や姿勢保持における『感覚神経』とは?

感覚神経という言葉は聞きなれないですが、視覚と聞けば運動などに必要というイメージが沸きますよね。

例えば、飛んでくるボールを打つ動作は、視覚が使える人なら視覚を優位に使います。目でボールを見て、この辺に来そうだと予測を立ててバットやラケットを振ります。

片脚でバランスを取る場合はどうでしょうか?目をつぶるとバランスを取るのが難しくなることは皆さん知っていますよね。なぜなら、姿勢保持に視覚が役立っているからです。

これら一連の動きの背景には神経が働いています。目で受け取った情報が神経を通じて脳に送られ、脳がその情報を基に運動器官(筋肉など)に動きの信号を神経を通して送ります。このことから、視覚は感覚神経の1つと言われます。

運動やバランスを取るときに使われる感覚神経には次のようなものがあります。

  • 視覚
  • 聴覚(平衡感覚を含む)
  • 位置感覚などの固有受容感覚
  • 皮膚感覚とも呼ばれる機械受容感覚

聴覚は、音でタイミングを予測することにも役立ちますが、耳の奥の三半規管で平衡感覚を捉えることを含みます。(それぞれを別のものとして定義する例もあるようです。)

位置感覚は、身体がどこにあるのかを意識的・無意識的を問わず認識する感覚のことです。メカニズムを言うと、関節や筋肉、腱などの中にセンサーがあって、そのセンサーが脳に情報を送ることで身体のイメージが脳内で形成されます。センサーは角度や圧力・張力、力の加速度などを感じ取ることができます。

斜面での斜度を感じる、取りたいものに手が届くと判断する場合などは、位置感覚が利用されている例です。

皮膚感覚は文字通り皮膚を通じて得る感覚です。分かりやすい例では指で触れて感じる触覚、熱い・冷たいなどの情報です。皮膚の中にもセンサーがあって、圧力や張力、力の加速度を感じ取ることができます。感覚の鈍いところにNABOSOのような突起物で刺激を与えると、感覚が上がるというのはこの皮膚感覚を利用したものです。

位置感覚と皮膚感覚は、それぞれ固有受容感覚や機械受容感覚という専門用語に置き換えられます。私たちが感覚神経を学ぶときは、メカニズムに直結するこれらの用語で学習します。

NABOSOニューロセンサリースペシャリストの養成コースより

感覚神経は複数を併用するが優位な感覚というものがある

見出しの通り、一つの感覚神経だけで運動や姿勢保持を行う訳ではありません。わたしたちは、無意識にそれらの感覚を総動員して生活やスポーツを送っています。

そして、総動員する中でも優位な感覚というのがあります。ほとんどの場合で視覚が優位でしょう。しかし、その度合いは個人差があるし、視覚以外では何が得意かというのは人によって異なります。

ピラティスで養われる位置感覚

ピラティスさんは、遺した著書の中でコントロロジーという考え方を提示しており、姿勢や呼吸、食事や心との調和など、現代の生活においても共通する考え方を提示しています。その後ピラティスが発展する中で、ピラティスの効果はより多方面、多角的に語られていて、ピラティスさんが指摘したことも含めて代表的なものを挙げると次のようなところでしょうか。

  • 姿勢の改善
  • インナーマッスル強化(バランス能力を上げる)
  • マインドフルネス
  • 動作の再教育、感覚の向上
  • 筋力の向上、柔軟性の向上

今回、感覚神経について学んでいく中でふと思ったことがあります。それは、ピラティスは位置感覚(固有受容感覚)を上げるのに特徴があるユニークなエクササイズではないかということです。(ユニークという単語は個性的な、競争優位性のあるという意味で使っています。)

ピラティスには、ピラティスさんが創ったマシン以外のものも含め多種多様なマシンが存在します。マシンを使うエクササイズでは、視覚を動員するものもあるのですが、比較的視覚に頼らずに行えるものが多く存在します。

ピラティスのマシンは、マシンに実装しているバネからのフィードバックを利用して、自分の身体の位置や筋力の出力をコントロールすることが多いです。このバネからのフィードバックは、バネではないもの(例えばサスペンションと呼ばれるストラップなど)と比較して、ノイズが少なく与える力に対する反力が緩やかなので、身体をコントロールするのに役立ちます。つまり、バネの存在自体が位置感覚を上げる助けになるのです。

ピラティスマシンを使ったエクササイズでは動作の方向を制限することができ、このことも位置感覚を絞り込んで強化することに役立ちます。例えば3次元で自由に動くのと、2次元でコントロールするのでは、2次元の方が圧倒的に分かりやすいというのは想像しやすいですよね。

なぜピラティスが良いのかという1つの答え

位置感覚を上げるトレーニング手法は、ピラティス以外にも存在しますが、先に整理した

  • 比較的視覚に頼らずに行える
  • バネの存在自体が位置感覚を上げる
  • 動作の方向が制限されている

揃っていることこそが、ピラティスの特徴なのではないかと思います。

今回、NABOSOのニューロセンサリースペシャリストの資格コースでは、4つある感覚神経のうち1つの感覚を強化したり、逆に1つを遮断して他の3つの感覚を上げるなどの、感覚神経のバランスを変えるアプローチを実践しました。

神経科学的には、位置感覚のトレーニングとしてピラティスを位置づけ、他の感覚は競技に特化した練習を行うなど、トレーニングの捉え直してみると面白いのではないかと思います。

クライアント別に見たピラティスの意義

僕自身が日頃思っていることに、「日頃から何らかのスポーツを行っている人(スポーツ愛好者)がピラティスを体験すると、はまる人とはまらない人がいる」ということがあります。

僕自身のプレゼンテーション能力に起因する部分もあると思うのですが、別の観点では、スポーツ愛好者は4つの感覚をバランス良く使えている人が多く、なぜ位置感覚の向上をすればよいのかが分からない、位置感覚に焦点をあてたエクササイズは物足りない、などを無意識下で感じているのではないかと思うのです。

さらに、位置感覚の向上という点では、バランスボールなどの不安定な上で運動する方が楽しいし、達成感も得やすいです。Olaのスタジオでも、不安定な状態で動くエクササイズを提案できるので、僕自身も無意識のうちにそうした手法を取り入れてきたのですが、逆にそうした手法を安易に取り入れると、基本と呼ばれるような地味なエクササイズは好まれない傾向にあります。

しかし、ここ数年のレッスンではレッスンの引き出しも増えて、次のような考えで対応することも少なくありません。

位置感覚の感度が弱かったり機能が低下する背景に、身体のアライメントの不良があり、それを直すことで位置感覚が上がるということです。

例えば、足のアーチが落ちていると片脚で立つバランスがとりにくくなります。膝が内側に入って太腿が内旋するなど、下半身の土台が揺らぐために身体の安定が取りにくくなるだけでなく、素早く反転するなどの動作では、反転時に足に与える力にロスが生じやすくなります。

こうした背景を説明せず単にエクササイズだけを行っていっても、身体のアライメントは整う可能性がありますが、理由と期待される効果を話してからエクササイズを行う方が、効果はより早く訪れる場合が多く、何よりクライアントさんが理解するのでその人のスキルとして定着します。

さらに、スポーツ愛好者へは、その人が行っている競技において何が課題なのかを探り、提案を行っていきます。筋力強化や俊敏性の向上はピラティス以外のエクササイズが向いているケースが多いですが、身体のアライメントや動作パターンを見直すためには、ピラティスのエクササイズが分かりやすい場合が多いと感じています

なお、スポーツ愛好者で「ピラティスが自分に良い」とはまる人は、こうしたピラティスの良さに直感的に気づく人なのではないか、と思います。

クライアント別に見たピラティスの意義(2)

運動が苦手な人、運動習慣がない人にとっては、ピラティスの特徴

  • 比較的視覚に頼らずに行える
  • バネの存在自体が位置感覚を上げる
  • 動作の方向が制限されている

がまさに運動に入っていきやすい環境となります。運動が苦手な人と言っても一括りにはできないので、おひとりおひとりの現在位置やその人の性格などを見て、お声がけする内容を変える必要があるのですが、その話はまた機会を改めて共有できたらと思います。

マインドフルネス

僕はマインドフルネスについては詳しくないのですが、今の瞬間に起きている出来事や自分自身の感覚に集中することで心がリセットされる瞑想的なもの(ヴィパッサナー瞑想法のイメージ)として捉えています。

僕自身は自分の身体をケアするにあたって、ピラティスをマインドフルネスとして位置づけたり、瞑想的に行うことはないのですが、それでも終えると心がすっきりするというのは、ピラティスが位置感覚に対する情報を脳に送り込んで、またその情報に集中していけるからではないかと考えています。

神経科学と運動と古代から伝わる瞑想法がつながるなんて、なかなか興味深い話ではないかなと思いますよね。

 

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